転職サポートの仕事はほとんどの場合が「一期一会」ですが、Aさんは2回転職サポートをさせてもらったことで印象深い受講者です。
Aさんは、都内の大学の経済学部の出身。
税理士を目指して勉強し、在学中に「簿記論」「財務諸表論」の2科目に合格していました。
都内の大手税理士法人に就職し、実務経験を積みながら残る科目の合格を目指しました。
しかし、久しぶりの新人とあって、業務の大半が雑用に近いもの。
望むような実務経験が積めないと感じたAさんは、わずか1年で退職してしまいます。
税理士業務にも疑問を感じたAさんは、一念発起して公務員を目指しました。
しかし、奮闘虚しく試験の不合格が続いて断念。
1年半のブランクを抱えて、再度税理士路線に戻って就職活動をしました。
そして苦戦の末に、所長とスタッフ1名だけの税理士事務所に何とか就職することができました。
将来のパートナー候補として採用され、即戦力として高い業務水準を期待されたのです。
ところが。
満足な引き継ぎも無い状況でAさんは奮闘したものの、期待には応えられず…
3ヶ月の試用期間で無念の退職となってしまったのです。
Aさんは途方に暮れ、私のウェブサイトを見つけてサポートを申し込んできました。
Aさんのキャリアは、かなり難しいものになっていました。
大卒後の3年半で、すでに2つの税理士法人・事務所を辞めています。
勤務期間も合わせて1年余りしかなく、しかも直近の税理士事務所は3ヶ月で「クビ」です。
それに加えて、Aさんは非常に内気で神経質な性格で、面接に強いタイプとも思えませんでした。
残念ながら、もう一度税理士法人・事務所を目指したとしても、苦戦は目に見えていました。
そして何より、Aさんの税理士業務への熱意も薄れていました。
それではますます採用は遠のいてしまいます。
そこで私は、「一般企業の経理部門」を目指してはどうかとアドバイスしました。
Aさんの経験業務のレベルは決して高くありませんでした。
しかし、異なる業界の延べ30社近い企業の経理業務に関わった経験がありました。
一般企業の経理部門の求人なら、少数の企業での経理経験しかないライバル応募者に対して、それが強みになる可能性があるからです。
Aさんはその可能性に賭け、一般企業への就職を目指すことを決めました。
とはいえ、Aさんの業務経験はわずか1年余り。
少しでもアピールの材料を揃えるため、数値化できる実績はすべて数値化してもらい、具体的にしていきました。
そして、
「顧客企業を間接的にサポートするよりも、企業の経理部門に所属して自社の経理・財務に直接貢献したい」
という転職理由を掲げて、応募活動に取り組んだのです。
応募の反応は決して良好とは言えませんでしたが、それでも1ヶ月経たないうちにある教育系企業から内定を獲得。
Aさんは3社目の転職を無事果たしたのでした。
それから3年ほど経ったある日の夜。
23時近くに事務所の電話が鳴りました。
普通は深夜に電話に出ることはないのですが、ちょうど業務が一段落したところで、
「こんな時間になんだろう」
と反射的に受話器を取ってしまったのです。
すると、若い男性のささやくような声がしました。
「遅い時間にすいません…」
それは、Aさんからの電話でした。
聞けば、毎日遅くまで残業続きで、こんな時間でないと電話できなかったとのこと。
そして、「もう一度サポートをお願いしたいんです」と言うのでした。
過去の職場よりも長いとはいえ、今の会社もまだ3年です。
次の転職は、さらに「長続きしない人材」という負のレッテル抱えての活動になります。
「本当に転職が必要なのか」
その見極めが私の最初の仕事でした。
Sさんは、心身ともに参っていました。
入社したのは従業員60名ほどの教育系企業。
Sさんは経理担当として採用されたはずでした。
しかし、社員の相次ぐ退職などの影響で、早い段階から労務管理や総務業務も任されることに。
しかも、上司は実務を行わないので、実質的にほぼ1人で業務をこなさなければなりません。
もちろん経理業務以外は未経験のため、ゼロから独学しながら対応する日々です。
それでもSさんは期待に応えるたに奮闘し、大きなミスもなく管理業務を回していきました。
その原動力には、SさんのITスキルの高さがありました。
Sさんは独学でHTML、CSS、Java、Excelマクロなどに精通していました。
それらの知識で基幹システムの改善や各種集計の効率化を図ることができ、まさに1人で3倍以上の仕事をこなせたのです。
Sさんは多忙による疲れを感じつつも、今までにない充実感を味わえたそうです。
しかし、話はそこで終わりません。
入社2年目、新規事業に進出するために、子会社が設立されることになります。
事務処理能力の高さが見込まれ、子会社の立ち上げ業務からSさんが関わることになりました。
もちろん親会社の仕事と掛け持ちで、そしてゼロから勉強しながらです。
無事立ち上げを完了したSさんに待ち受けていたのは、子会社のすべての管理業務でした…
採用業務から一手に担わなければならず、また大半が外国人のため、特有の法的知識も必要になります。
事業の方向性がまだ手探りなため、管理システムも頻繁な変更が生じます。
深夜残業をすれば何とかこなせていた業務も、休日まで働かなければとても回らない状態になりました。
Sさんの心身は悲鳴を上げていました。
Sさんの話を聞いて、「転職もやむなし」と判断しました。
Sさんの負担が大きすぎることが1つ。
それに加えて、今の会社では専門性の低い「何でも屋」になってしまい、
「経理業務を極めたい」
というSさんの目標は遠ざかってしまうからです。
私はSさんの申し込みを受け入れて、3年ぶりの再サポートをスタートしました。
ただし、Sさんには条件を1つ伝えました。
それは、
「在職のまま転職活動をすること」
です。
体力的にキツイのは承知の上です。
Sさんの転職成功には、「仕事が続かない人」という印象を少しでも抑えることが重要だったからです。
しかし、Sさんの仕事が忙しすぎて、ライブでミーティングを頻繁に実施することはできません。
そこで私は、録音・録画を活用してアドバイスを送り、効率的にサポートをしていきました。
Sさんの希望は、
「上場企業で経理業務のプロになる」
ことでした。
これまでの経験・経歴からすれば、かなり難易度の高いミッションだと感じました。
その一方、現職で見せたSさんの高い事務処理能力やがんばりを効果的にアピールできれば、可能性はゼロではないとも思いました。
しかし、純粋な経理業務のスキルや経験を比較すれば、上場企業に応募してくる「経理畑一筋」の優秀なライバルにはかないません。
そこで、敢えて「経理の専門性」ではなく、「業務経験の幅広さ」をアピールすることを考えました。
具体的には、
「経理・労務・総務実務を1人で担ったため、組織のお金・人・物の動き全てに精通できた」
とアピールすることで、
「細分化された組織の中で経理業務の経験しかないライバルとの差別化」
を図ったのです。
それに加えて、SさんのITのスキルや会社設立実務の経験などをしっかりアピールしていきました。
深夜残業を続けながらの転職活動は大変だったと思いますが、ゴールは遠からずやって来ました。
魅力的に仕上げたSさんの書類・経歴はエージェントからも評価され、多くの優良企業の案件を紹介してくれました。
そして、最終的にSさんは、希望であった上場企業の内定を勝ち取り、経理担当として働けることになったのです。
採用の理由は、
「広い視野・経験を持った経理マンが欲しかった」
とのことでした。
3年前、小さな税理士事務所を3ヶ月でクビになって相談してきたSさんが、まさか上場企業に就職できるとは…
私も感無量でした。