冒頭のHさんの肩書を「建築系コンサルタント」としましたが、実はとても迷いました。
なぜなら、Hさんの経歴は1つに括れない、とても多様なものだったからです。
私大の建築学科を卒業したHさん。
なぜか新卒で大手証券会社に就職し、東京の支店で新規営業開拓に従事します。
将来独立して商売をしたいという気持ちがあり、金融機関で揉まれる経験が役立つと考えたそうです。
そして、同期の中でトップクラスの営業成績を収めながら、わずか1年で退職。
母校の大学に戻って、建築学科の研究生として研究に従事します。
そして2年後、地元に戻って市役所の土木局に就職。
つまり、サラリーマン→大学研究生→公務員という動きです。
しかし、Hさんの遍歴(?)はそれに留まりません。
6年間の市役所勤務時代に、一級建築士の資格まで取得。
にもかかわらず、かねて興味のあったビジネスにトライするために、家族の反対を押し切って市役所を辞めてしまいます。
ところが、専門外のビジネスだったために早々と頓挫…
もともと独立志向が強かったHさんは、サラリーマンには戻らず、建築コンサルタントとしての自営の道を選びました。
当初は市役所時代の人脈も活かして順調でしたが、次第に低迷して数年後にはサラリーマンに戻ることを決断します。
しかし、その時すでに「アラフォー」の年齢になっていたHさんは、再就職活動に大苦戦。
通常の正社員での採用を諦め、「技術者派遣」として派遣先に常駐するエンジニアとして働き始めたのです。
Hさんは持ち前のバイタリティとリーダーシップを発揮。
通例正社員が担うチームリーダーに抜擢され、十数名のメンバーをまとめて数多くのプロジェクトを遂行しました。
しかし、待遇への不満と、正社員として1つの会社に定年まで務めたいという思いから、
「最後の転職活動」
に臨むことを決意したのです。
ところが、Hさんの決意も虚しく、働きながらの転職活動は一向に成果が得られません。
それも無理はありません。
数年前に一度挫折し、それからいくつも年齢を重ねているわけですから。
Hさんの転職活動は、成果が出ないまま「2年」が過ぎました。
半ば諦めの気持ちでいた中、たまたま私の本をアマゾンで見つけ、熟読。
「この人なら」との期待感でサポートの申込をされたとのことでした。
とはいえ、その時の私の率直な気持ちは、
「すごい人が来たな~(苦笑)」
というもの。
何しろ、上述のような経歴なので、まず「解読」するのが一苦労。
応募企業の採用担当も、Hさんの書類を読んで「採りたい」とはとても思わなかったでしょう。
Hさんの経歴の理解に四苦八苦していた私ですが、一方で明白なことがありました。
それは、「Hさんは話が面白い!」ということです。
話をしていてついつい引き込まれる、人間的な魅力があるのです。
「これは、面接に進めたらチャンスあるぞ」
そう思いました。
問題は、どうやって面接に進むのか、ということですが。^^;)
Hさんに決定的に欠けているのは、
「経歴の一貫性」
でした。
言い換えれば、「何の専門家かわからない」ということ。
そこで、少々強引ながら、
「約20年に渡って建築のフィールドに携わり、一級建築士の資格も保持する建築のプロ」
というブランディングをすることにしました。
それに加えて、
「公・民両方の建築業務に精通」
というHさんならではの強みを打ち出しました。
そして仕上げが、Hさんの類まれな「交渉力」のアピールです。
Hさんは「単なる技術屋」ではなく、人好きのする性格を活かして交渉に非常に長けていました。
そして実際、数多くのプロジェクトの成功実績を残していたのです。
そのHさんの性格や交渉力を、自己PR文を使って鮮明に描写しました。
客観的に見れば、Hさんの経歴は問題だらけです。
「年齢の高さ」
「一貫性の無さ」
「独立の経験」
「直近の派遣歴」…
普通なら真っ先に選考から落とされておかしくありません。
事実、Hさんは2年間落ち続けていたのですから。
しかし、出来上がった応募書類は、Hさんのキャラクターが前面に出て、
「何かこの人面白いやん!」
「仕事もできそうだし」
と感じさせる、ユニークなものになっていました。
「これなら面接に呼んでくれる会社も出てくるかも」
私は期待を持ってHさんに応募活動をリスタートしてもらいました。
すると…
31社応募中、8社も書類選考を通過したのです!
厳密には、うち7社は転職先が早く決まったために書類選考を辞退したので、24社中8社。
実に3社に1社がHさんを面接に呼んだことになります。
正直なところ、私は「2、3社面接が入れば御の字」と思っていたので、予想を遥かに超えていました。
この反応の良さには、Hさんも驚きと笑いが止まりませんでした。
面接に進んで、直接アピールする。
その機会さえ得られれば、Hさんなら採用を勝ち取るチャンスがきっとあると思いました。
そして…
Hさんは最終的に3社から内定を獲得しました。
そして、ベストな条件の建築系コンサルティング会社に入社したのです。
しかも、正社員であるだけでなく、Hさんは高い評価を受けて課長として採用されました。
前職まで正社員ですらなかったのですから、Hさんの喜びようは想像がつくと思います。
後日、Hさんからサポートのお礼として、有名ブランドのお菓子が届きました。
お酒がダメで甘い物好きな私にとって嬉しいプレゼントです。
開けてみると、お菓子と一緒に封筒が入っていました。
中を見てビックリ。
なんと2万円の現金が入っていたのです。
お礼の品を頂いたことは何度もありますが、さすがに現金は初めてです。
私もHさんの気持ちが嬉しくないわけはありません。
でも、規定の料金はすでに頂いているので、Hさんだけ余分に頂くわけにもいきません。
とは言え、せっかく頂いたものを「返金」するのも失礼な気がしました。
そこで私は、頂いたお金で就職祝いの品を購入し、Hさんに贈ることにしたのです。
何を贈ったのかは伏せますが、Hさんはとても喜んでくれました。
転職サポートは一期一会のお付き合いになることがほとんどです。
でも、Hさんからは今でも毎年年賀状が届きます。
Hさんの年賀状を見ると、
「今年もたくさんの人に喜んでもらえるようにがんばろう」
と思います。
なぜ2万円だったのかは未だに聞けませんが…^^;)